はるのゆめ

ベルサイユのばらが大好きです

「一度きりの大泉の話」から

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この本は、萩尾望都先生の自叙伝です。今では、その才能は誰しもが認めるところだとは思いますが、マンガ家になった当時のこと、心に封印していたことが書かれてあります。

私が大好きな「トーマの心臓」も連載第一回めで、打ち切りを告げられたことも書かれていて、とても驚きました。

ポーの一族」も、連載中はとても評判が悪かったことも書かれてありました。

エドガーが、怖い、冷たいと少女の読者には好きになってもらえませんでしたと書いてありました。

確かに、その当時の少女マンガとしては、「ポーの一族」も「トーマの心臓」も、どちらも異色ですけど。

トーマの心臓」でエーリクがユリスモールに言った「僕の翼をあげる」というセリフ、萩尾望都先生は、

「ユリスモールはどうやって救われるのか、エーリクはそれができるのか、どうやるのかと、ずっとずっと考えていたのですが、ある日、エーリクの口からホロリとそのセリフが出てきて、エーリクに感謝!です。エーリク!君って本当に天使だったんだね!」

と書いておられます。まったく萩尾望都先生に同感です。このセリフは本当に、すごいとしか言いようがないです。

私としては、そのあとの「髪の毛一本だってやんない」とダダをこねるエーリクも大好きなのですが。

「物語を考えているときは、落ちてこない時は、ただ苦しいだけだけど、それがふっと目の前に現れる時、宝物を発見したという気持ちになります、自分が見つけたというより、エーリクが見つけてくれた」と書いています。

トーマの心臓」が、萩尾望都先生のマンガ家として、スタートしたごく初期に描かれた作品であることに驚きます。

そして、萩尾望都先生でなければ、描けない作品であると思います。

この作品と、初期の「ポーの一族」の頃の萩尾望都先生の絵柄でないと、描けない世界観でした。

でも、当時の少女マンガ界の中では、必ずしもすぐに評価されたものではなかったこと、「盗作」という噂が、ずっとあったということ、すべて驚いてしまうことばかりでした。

この本には、竹宮恵子先生のことも書かれてあります。二人の出会いから、また、離れていったいきさつが、書かれています。

心に封印して、語らないと思っていたことを、この本を通して語られたその理由も書いてあります。

他と比べる術もないほど、才能があり、新しい少女マンガの世界を開いてくれたお二人です。

私が何か意見を述べるのも、とてもおこがましいのです。

でも、分かっていることは、竹宮恵子先生の「風と木の詩」そして、萩尾望都先生の「トーマの心臓」そして、「ポーの一族」の「小鳥の巣」、これらの作品は、少年が登場し、男子寄宿舎を舞台にしているという点では、共通点は確かにあります。でも、描こうとしているものは、全く異なる世界だということは確かです。

この本を最後まで読み、よく、ここまでの気持ちを、書いてくださったと、一読者として、心から感謝したいと思いました。

おそらくは、長年心に封印してきたことを思い出して、文章として書く作業は、とても辛かったのではないかと思います。

でも、「トーマの心臓」のユリスモールが、エーリクに全てを打ち明けて、新しい世界に踏み出していったように、萩尾望都先生の心の世界が、また広がっていくのではないか、新しい世界に踏み出していかれるのではないか、そのように一ファンとしては、期待していますし、それを願っています。