「おにいさまへ」のなかで、一番心惹かれるキャラクターは、薫の君です。
「わたしにとって、愛っていうのは、自分の人生よりあいての人生をたいせつに思うことなんだよ」
薫の君は、奈々子にそんな言葉を投げかけています。
そして、「死とむかいあっていても、いつも生だけを見つめていたいと思う」とも言っています。
病気を患い、この先の5年という時間、常に死と向きあって生きることは、18歳の薫の君にとってはどれほどの恐怖、苦しみがあったことか。
その恐怖、苦しみを最後まで受けとめると言って薫の君にプロポーズする武彦さんの大きな大きな愛の力の前に、薫の君は、自分の弱さをさらけ出し、ともに生きる決意をします。
ここが一番好きなシーンで、私は何度も何度も読み返しています。
サンジュスト様は、死だけを見つめ、誰とも和解せず、誰のことも受け入れず、自死してしまうこととは、対照的です。
サンジュスト様は、奈々子に対し、「あなたにあえてよかった」「あなたが必要だった」という言葉を残したことが、悲しいです。それなら、生きて欲しかったと思うのです。
池田理代子先生の作品は、悲しい結末が多いです。「おにいさまへ」は、アニメ化されていたそうです。私は見たことはありませんが、アニメでは原作とは異なる終わりが描かれているそうです。