はるのゆめ

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ユリウスの記憶障害

ユリウスの記憶障害は、心が耐えきれないような、悲しみや辛さに襲われた時に、自己を防衛する手段として、おきているようです。

1部のレーゲンスブルク編でも、すでに、その兆候が見られます。最愛の母レナーテ夫人が亡くなったあと、悲しみからなかなか立ち直れないユリウスですが、イザークの妹のフリデリーケが亡くなったことを一時的に忘れます。

そして、マリア・バルバラお姉さまが、馬車の車輪が外れたことによる事故で、大怪我をした時に、レナーテ夫人がすでに亡くなっていることを忘れて、「かあさん、おりてきてよ」と言います。

でも、この頃はそれが長く続くことはなく、きちんと記憶は戻ってきています。

ロシアに行き、ユリウスにとっては、2回大きな悲しみに襲われることがありました。

1回めは、アレクセイと再会し、アレクセイに拒否された直後です。建物から落ちて、気がついた時には、何もかも記憶を失ってしまいました。

そして、2回めはアレクセイが亡くなり、生まれてきた赤ちゃんが死産だったと聞いた時です。

ロシアにいる間は、ドイツ時代のすべての記憶が戻ることはなかったのですが、ロシアでのユスーポフ邸での生活、そして、アレクセイと夫婦として暮らした数年間の記憶があったはずなのに、今度はそのロシアでの生活も忘れてしまいます。

ユリウスは、アレクセイではなく、クラウスと呼び、レーゲンスブルクでクラウスが生きていると思い込みます。

アレクセイの死と赤ちゃんの死産という、あまりにも過酷な運命がユリウスを襲い、そのように考えないと、自分の心を保つことが難しい状態に追い詰められてしまったということだと思います。

ほとんど廃人のような、あらゆる感情を失くしてしまったユリウスですが、故郷レーゲンスブルクに帰れるということは理解します。

この地で、何とか心の平安を得て、幸せに暮らして欲しいと願いましたが、レーゲンスブルクでも、ユリウスは、自分では覚えてはいないのですが、過去の殺人事件のことで、精神的に追い詰められていきます。

ユリウスはもともと、このような過酷な運命を生き抜いていくような、精神的な強さを持った女性ではないのだと思います。その唯一の防衛手段が記憶をなくすということであることが分かります。

オルフェウスの窓」という、壮大なストーリーのなかで、運命に翻弄されてしまうヒロインです。でも、愛に殉じようとするその生き様は、誰よりも心に残るキャラクターであることも事実なのです。