はるのゆめ

ベルサイユのばらが大好きです

ユリウスの深い心の闇

オルフェウスの窓」1部でクラウスやユリウス、イザーク、そしてほかの生徒たちも参加して、雪合戦をするシーンがあります。 

誰かが、雪玉の中に石を入れて投げたため、その雪玉が当たり、イザークは額に怪我をし、血を流します。

私は、ここのシーンは、モーリッツが、イザークに石を入れた雪玉を投げたのかなと、長いこと思っていました。

モーリッツは、イザークが入学してくる前は、ピアノ科一の実力があり、学内演奏会で、クラウスのバイオリンの伴奏をしていました。

でも、今年はイザークがクラウスの伴奏をすることになり、モーリッツは、そのことをすごく不満に思っていて、イザークに対して嫉妬していました。

この場面をよく読むと、雪玉を誰が投げたのか、はっきりと描かれていません。そして、雪玉がイザークに当たった瞬間、何だろうとイザークの方を見るモーリッツが描かれています。

モーリッツはそもそも雪合戦には参加していないのです。

そして、ユリウスや、クラウスが、血を流しているイザークのもとにかけ寄ります。ユリウスとクラウスはイザークを心配しています。そして、クラウスは、医務室へ連絡してこいと周囲の者に言います。

その次のコマのユリウスの表情を見て、雪玉を投げたのは、ユリウスなのかもしれないと思いました。

そのあと、怪我をしたイザークを家に送っていくユリウスの姿が、描かれています。

一番親しい友だちであるイザークになぜ、石の入った雪玉をユリウスは投げたのでしょうか。

明らかにイザークを傷つけようとするこの卑劣な行為の裏側には、ユリウスのどんな気持ちがあったのでしょうか。

私は長いこと勘違いをしてきたこの場面を読み直し、ユリウスの深い深い心の闇を感じます。

この少し前には、自分の実の父親の首を絞めて、殺害しようとするユリウスの姿も描かれています。この場面も、ユリウスの行動は衝動的です。気がついたら、父親を殺そうとしていたのです。

未遂に終わりましたが、考えてみると、ここもかなりユリウスの闇を感じさせる場面だと思います。

そして、そのあと、母をゆする無免許の医者のヤーン先生を目撃する場面、父を殺害しようとしたところを見られたゲルトルートを、短剣で脅すシーンも描かれています。

そして、モーリッツだけではない、僕だって、クラウスと演奏したかったと思わず言ってしまうユリウスの心のうちも描かれていました。

ユリウスは、財産目当てに、男の子のふりをして生きていますが、このような生き方をしたくてしている訳ではありません。

ユリウスは経済的に貧しいなかで育ちました。そういう意味では、ユリウスとイザークの育った環境は、似ている面もあります。でも、実際は違うのです。

経済的には貧しくても、きちんとした考えを持つ両親に大切に育てられてきたイザーク、そして、ピアノの才能があり、奨学金を受けて入学し、すぐにその才能が、学内で認められようとしているイザークは、ユリウスから見ると、真っ当な光のあたる場所で生きている人間です。

何も知らずに、レナーテ夫人のことを、とても綺麗なお母さんだねと褒めるイザークに対して、ユリウスは、女なんてものは、外から見ただけでは分からないと言います。

ユリウスは、もちろん、母の気持ちに理解を示し、愛しているのです。でも、そのために自分はこのような生き方をしていかなければならないという気持ちもあるのです。

15歳という年齢でありながら、とても重い複雑な事情を抱えて生きていかなければならないことに苦悩しています。

この記事で取り上げたエピソードの一つ一つは、ユリウスが殺人を犯すことになる、内面の苦悩、心の闇を丁寧に描いていると思います。

そして、ついに、母を脅し、自分たちを苦しめるヤーン先生をその手にかけ、殺害するという行為に至ることになってしまいます。