はるのゆめ

ベルサイユのばらが大好きです

影として添いつづける

アンドレは、わたくしは影ですとジャルジェ将軍にこたえました。アンドレのジャルジェ家での生活に、一切心の葛藤はないのだろうかと考えた時に、1箇所だけ思い浮かぶ場面があります。

それは、アンドレの目が見えなくなってきたことを、ばあやに悟られた場面です。ばあやはアンドレに口どめをします。だんな様にそんなご迷惑をかけてはいけない、それでなくても、今までどれほど身分不相応なご恩をお受けしているか分からないのに、と言います。そんなこと言われなくても分かっているよと答えるアンドレ

でも、そうは言っても、ばあやはアンドレの目が見えなくなることが、本当はとても辛く、悲しいのです。ばあやはアンドレにそう言ったあとでアンドレと言って泣いてしまいます。泣いているばあやの声を聞きながら、

同じ人間なのになと考えるアンドレの姿が描かれています。この1箇所だけですが、アンドレのこういう気持ちが描かれているところが、あまりないので、印象に残っています。 

アンドレのこの言葉は、ジェルジェ家の人に対する不満ではありません。ただ、富めるものがいる一方で、自分のように経済力のないものがいる。どちらも同じ人間なのになという広い意味での、この社会に対する不条理を感じた一言ではないかと思います。

出自は変えることができませんが、貴族でも平民でも同じ人間なのになという想いかもしれません。

アンドレは母親が亡くなった時に、ジャルジェ家で働いていたばあやが唯一の身内なので、ジャルジェ家に引き取られ、オスカルの護衛兼剣の相手として、兄弟のように育ちます。

若い頃のアンドレは、生活の苦労もなく、自分の生き方に疑問を感じている様子も描かれてはいません。

でも、オスカルを愛していることをロザリーに打ち明けた時に、身分の違いに苦しむアンドレの姿が描かれています。

オスカルの存在が、アンドレがジャルジェ家にいる一番の、そして唯一の理由だと思います。

女性でありながら、軍人であるというオスカル、剣の腕も強く、護衛が必要なのかと思うところですが、若い頃から、正義感が強く敵も作ります。仕事がら危険な目にもあいます。これまでにも、何度も命の危険にさらされることがあり、アンドレが、そして時にはフェルゼンがオスカルを助けています。

アンドレにとって、オスカルが大切な存在であることは言うまでもありませんが、それとともに、危なっかしくて放っておけないのだと思います。自分が守っていないと、そばにいないと、オスカルは、自分の思うように生きてはいけないことが分かっているのです。

だから、もしオスカルがジャルジェ家にいなかったら、アンドレは、成長と共にジャルジェ家を出て、別の生き方をしていたかもしれません。 

アンドレにとっては、オスカルは唯一無二の存在なのです。だから、

吐血して、不安になった時に、オスカルは、「そばにいてくれ、わたしをひとりにしないで、どこへもいかないと・・」とアンドレの胸に抱きつきます。俺のいくところがほかにあると思うのか、死ぬまでそばにいてやるぞというアンドレ

アンドレの心はもうずっと前から決まっているのです。

ジャルジェ将軍がアンドレにオスカルのことを頼んだぞという場面は、結婚式の花嫁の父を思いだします。結婚式では、長いこと娘を愛し育んできた父は、娘を夫となる人に託します。ジャルジェ将軍も同じように、自分が一番信頼するアンドレにオスカルのことを託し、オスカルの良き伴侶としてアンドレを認めているのです。