オルフェウスの窓で、イザークとユリウスは最初に出会います。イザークはユリウスに長い間、片想いをしていましたが、二人は恋人同士にはなりませんでした。
オルフェウスの窓の伝説は、出会った二人は必ず恋に落ちる、そしてその恋は必ず悲恋に終わるというものなのです。
イザークの場合は、二人が必ず恋に落ちるという、第一条件がクリアされていません。
でも、生涯片想いであり、そして、その想っている女性が先に亡くなってしまったという意味では、イザークにとっては充分悲恋だと思います。
ユリウスは、ロシアに旅立つ前に、イザークと会いますが、その時に、イザークは僕ではだめかと言って、ユリウスに気持ちを伝えています。
ここでユリウスがイザークの元にとどまっていたら、ユリウスにとっては、別の人生が開けていたかもしれません。
イザークの告白を聞いたユリウスは、このあたたかな胸の鼓動はもうひとつの人生へつながっていると思い、ここにとどまろうかという心の揺れは確かにあったのです。
ウィーンに行ってから、アマーリエに恋をするイザークですが、イザークの心には、本当はずっとユリウスがいたと思います。
そして、イザークにとって、人生のすべてと言えるのは、ピアノだったと思います。
だから、指が動かなくなり、ピアニストとしての人生が、終わってしまうと思った時に、どれほど絶望したか、その心のうちは、はかりしれません。
でも、そんなどん底に落ち込んだイザークを支えたのは、妻のロベルタでした。イザークは、考えてみると、とても幸せな人です。音楽学校時代は、妹のフリデリーケがイザークを支えていました。
ヴィルクリヒ先生が、イザークの才能を認め、引きあげてくれています。酒場のピアノ弾きをしていた時も、酒場のマスター、そして、お客さんたち、みんなにイザークは愛されていました。
そして、何もかも失ったと思い、レーゲンスブルクに帰ったイザークを街の人たちは、暖かく迎えてくれています。そして、ロベルタが残してくれたユーベルという可愛い息子もいます。
ピアニストとしては、大きな挫折をしたかもしれませんが、それ以上のたくさんのものを神様から与えられているイザークはとても幸せな人だと感じます。